干支(えと/かんし)

「干支」と聞くと一般的に、十二支の動物を連想することが多いですが、実はこれらの動物は干支ではありません。干支とは、「十干十二支(じっかんじゅうにし)」を省略した言葉です。
干支は十二支のほかに10種類の十干(じっかん)を組み合わせたもののことを言います。ルールにしたがってそれぞれを組み合わせると60種類あることから、六十干支(ろくじっかんし)とも呼ばれています。

古代中国では、万物はすべて「陰」と「陽」の2つの要素に分けられるとする「陰陽説(いんようせつ)」と、すべて「木・火・土・金・水」の5つの要素からなるとする「五行説(ごぎょうせつ)」という思想がありました。これらを組み合わせて「陰陽五行説(いんようごぎょうせつ)」と言い、やがて陰陽五行説を「十干」に当てはめるようになりました。日本では、この「陰」と「陽」を「兄(え)」と「弟(と)」に見立て、「兄弟(えと)」と呼ぶようになりました。「干支(えと)」と読むのは、この「兄弟(えと)」に由来しているそうです。

十二支(じゅうにし)

十二支とは、「子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥」の12種類の動物たちのことですが、もともとは方角や時間を表すものでもありました。

方角については、北に「子(ね)」、南に「午(うま)」が当てはめられています。地球の北と南を繋ぐ経線のことを「子午線(しごせん)」と呼び、太陽が真南の方角にある昼の12時のことを「正午(しょうご)」と呼ぶのもこのためです。

時間については、1日は24時間ですが、それぞれ十二支が当てはめられています。時代劇などで聞いたことがある丑三つ時という言葉は、十二支で表すと夜中の2時から2時半頃を表します。また、今でも時間表記に十二支の面影は残っており、午前、午後というのは午の刻(うまのこく)の午から来ています。午の刻は11時から13時を指しており、その前半だから午前、後半は午後と呼ぶようになったそうです。

十二支 訓読み 音読み 五行
うし ちゅう
とら いん
ぼう
たつ しん
うま
ひつじ
さる しん
とり ゆう
いぬ じゅつ
がい

十二支の順番にまつわる昔話

十二支の動物がどのように決まったのかについては、ある物語にあると言われています。細かい部分では諸説ありますが、元旦の挨拶で神様のもとを訪れた順番という説が知られています。

昔々、ある年の暮れ。神様が動物たちに向けて「1月1日の朝に、私のところに最初に到着したものから12番目までの者を、1年交代でその年大将にしてあげよう」と御触れを出しました。それを聞いた動物たちは「我こそが1番になろう」と張り切ります。しかし猫は話を聞きそびれ、ねずみに訪ねたところ「1月2日の朝」と言われ、それを真に受けて帰っていきました。
牛は足が遅いので、誰よりも早く夜明け前に出発しました。すると、牛小屋の天井でこれを見ていたねずみが、こっそり牛の背中に飛び乗りました。神様の家に着いたところ他に誰もおらず、自分が1番だと喜んでいたところ、牛の背中にいたねずみが飛び出して1位を横取りしたため、牛は2位となってしまいました。
続いて虎、うさぎ、龍、蛇、馬、羊と続きます。猿と犬は最初は仲良く一緒に向かっていたのですが、途中で喧嘩になってしまいます。そこへ鶏が仲裁に入り、猿、鶏、犬の順で到着し、猪が12位で十二支が決まりました。1日遅れで出掛けた猫は番外となり、これがきっかけとなり、今でも猫がねずみを追いかけ、犬と猿は「犬猿の仲」と言われてます。

他にも様々な説がありますが、十二支は人々に親しまれるように動物を割り当てられたとされています。

十二支にまつわる株式相場の格言

「辰巳(たつみ)天井、午(うま)尻下がり、未(ひつじ)辛抱、申酉(さるとり)騒ぎ、戌(いぬ)笑い、亥(い)固まる。子(ね)は繁盛、丑(うし)つまずき、寅(とら)千里を走り、卯(う)跳ねる」と言われています。
「辰年や巳年は株価が天井をつけ、午年は下がる傾向。未年で辛抱したのちに、申年・酉年は値動きが激しくなる。戌年は笑いたくなるほどの良い相場。その後亥年は落ち着いた動き。子年は上昇相場になりやすいが、丑年でつまずき、寅年は寅が勢いよく走り抜けるため相場が荒れるが、卯年で相場は跳ね上昇する」という意味です。

十二支と植物の成長過程

十二支は動物ではなく古代中国では季節に応じた植物の生成過程を表しているとも言われています。

十二支と植物の成長過程

十二支 植物の成長過程
種子から新しい生命が誕生する状態
種子から芽が出ようとしている状態
土から芽を出す状態
成長し少し地面を覆う状態
よく育っている状態
成長しきった状態
最盛期が過ぎて成長が止まり衰え始める状態
実が生りはじめる状態
実が大きくなっていく状態
実が成熟した状態
実が落ち植物は枯れて土に戻り次の芽を守る状態
新しい生命が誕生するのを待っている状態

十二支が持つ意味

■ 子(ね:鼠)

「子」は繁殖力が強く子だくさんであることから、子宝の象徴となることが多く「子孫繁栄」の意味が込められています。子という漢字は、うむ・ふえるという意味をもつ「孳」からきており「種子の中に新しい生命が萌しはじめる」状態を指しています。このことから子年は「新しいスタートの年」「繁栄の年」と言われています。また、七福神の1人である大黒天の使いと言われていることから「財力」「行動力」の意味もあります。

■ 丑(うし:牛)

「丑」は牛のことで、昔から農作業や牧畜業で人々を助け、荷物を運んだり畑を耕したりする生活に欠かせない動物でした。牛は現在のような畜産動物ではなく、生活のパートナーだったのです。力強さのシンボルであり「粘り強さ」「誠実さ」「堅実さ」を意味します。歩みがゆっくりな牛にちなみ、丑年は「急がずに一歩ずつ着実に物事を進める年」だと言われています。

■ 寅(とら:虎)

「寅」は勇猛果敢な動物、虎のことです。「勇ましさ」「決断力」の象徴です。寅という漢字は「演く(うごく)」からきており「春が到来し土から芽がでる状態」を指しています。このことから、生まれ持ったものを伸ばして成長するという意味があり、寅年は「成長の年」「挑戦の年」と言われています。昔から「邪鬼は虎を恐れる」という言い伝えがあることから、神社やお寺などでは、張り子の虎をお守りとして授けるところも多いようです。

■ 卯(う:兎)

「卯」はうさぎのことで、大人しく穏やかで、従順かつ温厚な性質であることから「家内安全」の象徴とされています。また、跳躍力があることから「飛躍」「向上」という意味もあり、卯年は「それまでの努力が実る年」「新しいことを始めるにも最適な年」と言われています。

■ 辰(たつ:龍)

「辰」は空想上の生き物とされる龍・ドラゴンのことです。中国では王は龍の生まれ変わりと言われていたこともあり、権力の象徴とされ、縁起の良い生き物とされています。唯一空想上の生き物で、権力や隆盛の象徴であることから辰年は「出世、権力に大きく関わる年」と言われています。

■ 巳(み:蛇)

「巳」は蛇のことで、蛇は何度も脱皮をする様子から強い生命力や不老長寿の象徴とされています。「復活と再生」の意味があることから巳年は「新しいことが始まる年」だと言われています。また、神の使いとして神聖視され、日本では弁財天の使いとしても信仰されています。

■ 午(うま:馬)

「午」は馬のことで、知性的で見た目の派手さもありますが、牛と同じように生活の中で密接に人と関わってきた動物です。農耕や運搬だけでなく武士たちの戦にも使われていました。「豊作」「健康」の意味が込められており、午年は「何事もうまくいく年」と言われています。日本ではお正月に絵馬を書く風習がありますが、高価な馬を奉納する代わりに、馬の絵を描いた板=絵馬を奉納するようになったのが始まりとされています。

■ 未(ひつじ:羊)

「未」は羊のことで、群れで生活している草食動物で「平和」や「家内安泰」の象徴とされています。穏やかな性格でやさしい気質を持っているため、未年は「1年を穏やかに過ごせる年」と言われています。

■ 申(さる:猿)

「申」は猿のことで、山の神様の使いや馬の守護であると信じられてきました。また、猿の性質から「器用」「臨機応変」という意味もあります。日本では「厄が去る」というゲン担ぎから願掛けを行う信仰の対象です。申という漢字は「雷」の原字で、稲妻が地面に落ちる様子を表した象形文字が由来となっています。雷が縦横無尽に天から地まで走る様子から、善悪ともに縦横無尽に何かが誕生して成長するとされ「あらゆるものが形作られていく年」と言われています。

■ 酉(とり:鶏)

「酉」はニワトリのことで、金運に関わる生き物として昔から人々に親しまれてきました。「酉=取り込む」から転じて「商売繁盛」の象徴とされてきました。毎年11月の酉の日には「福をとり(酉)寄せる」という縁起をかついで、各地で酉の市という商売繁盛のお祭りも開催されています。 酉という漢字は、徳利のような酒壺を現した「酒」からきており、収穫した作物から酒を抽出するという意味や、収穫できる状態であることから「実る」を指しています。このことらか酉年は「実りある年」になると言われています。

■ 戌(いぬ:犬)

「戌」は犬のことで、古くから人間と関わってきた動物で「勤勉で努力家」という意味があります。戌年は「真面目に働いたり、行動することで実りを得られる年」になると言われています。また、神社の狛犬(こまいぬ)が示すように、犬には魔を祓う(はらう)力があると信じられ、古くから日本人に大切にされてきました。そして、犬はお産が軽いことから、安産のお守りとしても多くの女性たちに親しまれています。

■ 亥(い:猪)

「亥」は猪のことで、猪肉は昔から万病に効くと考えられているため「無病息災」の意味が込められています。また、猪突猛進の言葉のとおり、猛烈な勢いで突き進むことから、亥年は「勢いがある年で、冒険を象徴する年」とも言われています。

十干(じっかん)

十干とは、「甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸」の10の要素の総称です。

古代中国で生まれ、10日間を一区切りにして、その10日間の1日1日に名前を割り付けたものです。現在でも1ヶ月を「上旬」「中旬」「下旬」と10日ごとに区切りますが、これは十干の10日を1つのまとまり「一旬(いちじゅん)」と捉える考え方に由来するそうです。十干は、五行 の「木・火・土・金・水」と、さらに陰陽のそれぞれ「兄 (え) (陽)」と「弟 (と) (陰)」を割り当てます。この陰陽五行説が結びつけられ、きのえ・きのと・ひのえ…といった読み方ができました。十干単体で使われることはなく、十二支と合わせて干支(えと)といって、暦の表示などに用いられます。

この十干にはそれぞれ独特の性質があるといわれています。十二支と組み合わせて暦の表示などに使われますが、風水では十干を利用してその人の素質や性格を見たりします。十干それぞれの性質は以下の通りです。

十干(じっかん)

十干 訓読み 音読み 五行 陰陽 五行陰陽
きのえ こう 陽(兄) 木の兄
きのと おつ 陰(弟) 木の弟
ひのえ へい 陽(兄) 火の兄
ひのと てい 陰(弟) 火の弟
つちのえ 陽(兄) 土の兄
つちのと 陰(弟) 土の弟
かのえ こう 陽(兄) 金の兄
かのと しん 陰(弟) 金の弟
みずのえ じん 陽(兄) 水の兄
みずのと 陰(弟) 水の弟

十干の性質

■ 甲(きのえ)

「甲」は、五行の木と陰陽の兄で、幹のしっかりした大木や、太陽へ向かってまっすぐ育った大樹を指し、多くの人を統率するリーダー的な性質を意味しています。

■ 乙(きのと)

「乙」は、五行の木と陰陽の弟で、草花などの柔らかな植物を指し、慎ましく繊細で遠慮がちな性質ですが、辛抱強く、物事に執着強く、保守的な性質を意味しています。

■ 丙(ひのえ)

「丙」は、五行の火と陰陽の兄で、照り輝く太陽を指し、陽気で情熱的、明るく快活で華やかな性質を意味しています。

■ 丁(ひのと)

「丁」は、五行の火と陰陽の弟で、灯やろうそくなどの静かに燃える弱い火を指し、外面は柔和な印象ですが、内には鋭敏な知性を秘め、思慮に優れた性質を意味しています。

■ 戊(つちのえ)

「戊」は、五行の土と陰陽の兄で、雄大で大きな山を指し、腰がすわって貫禄があり社交性に富む性質を意味しています。

■ 己(つちのと)

「己」は、五行の土と陰陽の弟で、作物が豊かに実る田や畑を指し、細心で規律正しく経済観念に富んだ性質を意味しています。

■ 庚(かのえ)

「庚」は、五行の金と陰陽の兄で、切れ味の鋭い刀剣を指し、世渡り上手で機転が利く性質を意味しています。

■ 辛(かのと)

「辛」は、五行の金と陰陽の弟で、純度の高い金属や、磨き抜かれた宝石を指し、我が強い一方、どんな困難があっても物事を成し遂げるという性質を意味しています。

■ 壬(みずのえ)

「壬」は、五行の水と陰陽の兄で、豊かな水をたたえる海や川を指し、善悪すべて飲み込むような度量の大きな性質を意味しています。

■ 癸(みずのと)

「癸」は、五行の水と陰陽の弟で、天からの恵みとなる雨や雪、霧、霜を指し、正直で潔癖、勤勉で奉仕精神が旺盛で忍耐力もあり、自力で進む道を切り開いていく性質を意味しています。

六十干支(ろくじっかんし)

十干十二支の組み合わせは、十干の「甲・丙・戊・庚・壬」と、十二支の「子・寅・辰・午・申・戌」。さらに十干の「乙・丁・己・辛・癸」と、十二支の「丑・卯・巳・未・酉・亥」が組み合わされるので、60通りになり「六十干支」と呼びます。これが一巡して「元の暦に還る」ことが「還暦」です。
また、1924年に完成した「甲子園球場」は、最初の組み合わせ「甲子」にあたる年で、縁起が良いということで命名されたそうです。

番号 干支 訓読み 音読み 番号 干支 訓読み 音読み
1 甲子 きのえね こうし 31 甲午 きのえうま こうご
2 乙丑 きのとうし いっちゅう 32 乙未 きのとひつじ いつび
3 丙寅 ひのえとら へいいん 33 丙申 ひのえさる へいしん
4 丁卯 ひのとう ていぼう 34 丁酉 ひのととり ていゆう
5 戊辰 つちのえたつ ぼしん 35 戊戌 つちのえいぬ ぼじゅつ
6 己巳 つちのとみ きし 36 己亥 つちのとい きがい
7 庚午 かのえうま こうご 37 庚子 かのえね こうし
8 辛未 かのとひつじ しんび 38 辛丑 かのとうし しんちゅう
9 壬申 みずのえさる じんしん 39 壬寅 みずのえとら じんいん
10 癸酉 みずのととり きゆう 40 癸卯 みずのとう きぼう
11 甲戌 きのえいぬ こうじゅつ 41 甲辰 きのえたつ こうしん
12 乙亥 きのとい いつがい 42 乙巳 きのとみ いつし
13 丙子 ひのえね へいし 43 丙午 ひのえうま へいご
14 丁丑 ひのとうし ていちゅう 44 丁未 ひのとひつじ ていび
15 戊寅 つちのえとら ぼいん 45 戊申 つちのえさる ぼしん
16 己卯 つちのとう きぼう 46 己酉 つちのととり きゆう
17 庚辰 かのえたつ こうしん 47 庚戌 かのえいぬ こうじゅつ
18 辛巳 かのとみ しんし 48 辛亥 かのとい しんがい
19 壬午 みずのえうま じんご 49 壬子 みずのえね じんし
20 癸未 みずのとひつじ きび 50 癸丑 みずのとうし きちゅう
21 甲申 きのえさる こうしん 51 甲寅 きのえとら こういん
22 乙酉 きのととり いつゆう 52 乙卯 きのとう いつぼう
23 丙戌 ひのえいぬ へいじゅつ 53 丙辰 ひのえたつ へいしん
24 丁亥 ひのとい ていがい 54 丁巳 ひのとみ ていし
25 戊子 つちのえね ぼし 55 戊午 つちのえうま ぼご
26 己丑 つちのとうし きちゅう 56 己未 つちのとひつじ きび
27 庚寅 かのえとら こういん 57 庚申 かのえさる こうしん
28 辛卯 かのとう しんぼう 58 辛酉 かのととり しんゆう
29 壬辰 みずのえたつ じんしん 59 壬戌 みずのえいぬ じんじゅつ
30 癸巳 みずのとみ きし 60 癸亥 みずのとい きがい